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真夜中の走り書き

初夏の檸檬の香りがほのかにするような夜。
黒黒とした空には、無数の硝子細工のようなきらめきが点々と散らばっている。
真夜中、私の甘美な部屋には
細く、うっすらと、たゆたうように
夜想曲が流れている。
机の上の洋灯(ランプ)は、
青や若草色や薄紫、麗々たる色彩のステンドグラスから成る
私が至極美しいと思ういろかたちをしていて、
ステンドグラスからぼんやりとまあるい光がノスタルジックにあたりを照らす。
この光の翳りが、一等私のお気に入りである。
さっきまでは夜想曲を聴き、
冷紅茶を飲みながら、森 茉莉の書いた本を読んでいた。
かつてのロココ様式のように、綺麗に装飾を施されたお気に入りのティーカップに
芳しい香りが広がる。
なみなみと注がれた黄金の水面には、ぼんやりと洋灯の光が反射している。
そのとなりに置かれた、森 茉莉の本。
森 茉莉をはじめ、長野まゆみやフランク・ヴェデキントや吉屋信子など
耽美な、それでいてあやしいきらめきを持った作品を私は夜想曲の供にする。
ロマンティックなピアノの旋律に、
甘美な文章。
そして、やわらかい灯りと真夜中に愉しむ紅茶。
これぞ、私の贅沢なのである。
こうして密やかに夜の時間をとめ、美の世界に身を委ねる。
私はどこかの貴族にでもなったような気分で、
今日も眠りにつくのである。