「どうしてあんな女に私が」

朝起きたとき、全てが夢だったらいいなという思いを込めてラインの履歴を見返した。5:47。白いカーテンの向こう側が明るいことは辛うじてわかる。ぼんやりとする視界にお馴染みの黄緑色のアイコンが浮かんで、トーク履歴が表示された。通話履歴も私の情けないトーク履歴もそのまましっかり残っていた。夢ではなかった。

  どうして 

急上昇急降下を繰り返しブレーキの壊れたジェットコースターの如く、情緒が不安定な私の頭の中に浮かんだ言葉はこれだけ。混沌が飽和した頭の中には疑問符しか出てこなかった。

  どうして 

あの子の顔を思い浮かべる。

美人かブスかどちらかにカテゴライズしろと言われたら、迷わずブスに仕分けされるであろう容姿。丁寧に手入れされてるとは言えない髪と明らかに整えられていない眉毛。婚活パーティーで再開したときには、ベースメイクやアイメイクをおざなりにして真っ赤な唇だけが不気味に浮いていた。正直、年齢よりも幼く見える彼女には不釣り合いだった。ぷっくりと張った頬と芋虫風情の10本の指が鮮明に脳裏に焼き付いている。身振り手振りを交えて黄色い声でキャッキャと笑い、自分のことを名前で呼ぶあの子。反芻したところで、やっぱり浮かぶのは疑問符だ。

  どうして 

私が彼女に負けてるのは年齢くらいだろう。

正直、容姿も学歴も立ち居振る舞いも圧勝だと思っている。それらをも凌駕するほど、男にとって年齢が若いというのは魅力的なことなのだろうか。

同時に、そんな若いだけが取り柄のセンスも教養のかけらもない田舎娘にコロッと傾いた彼のことまで嫌悪しそうだ。吐き気がする。言いようのない不安と行き場のない怒りがかなしみを助長させた。

6:20

ベッドから投げ出した自分の浮腫んだ足に目が行く。2年前はこんなじゃなかった。

そう、彼女の年齢のときは。

次の瞬間、黒い泥を孕んだ波が大きくうねって、私を飲み込む。

私は負けた。

膝から崩れ落ちて、大声で泣いた。時に嗚咽し、身体が震えた。女として負けた。ボロボロになった自尊心とパンパンに浮腫んだ足。涙でまみれた顔には髪の毛が纏わり付いて、今この瞬間宇宙で1番惨めな人間だなと自嘲的に笑った。

26歳の失恋で、こんなにも傷つくなんて。

ピュアかよ。もう、歩けないや。