あの日のこと。

私の上に先輩の端整な顔があって、私たちは裸で。私に覆い被さった先輩が腰を沈めたときに重くて熱くて堪らない感覚が迫り上がってきた。動かないまま確かめ合うように唇をあわせて、もうだめ、と私が零すと少しだけ眉を顰めて再び私に落ちてきた。視界が揺れて、境界線が分からなくなる。滲んで、ぼやけて、天井の白さと先輩の肌の青白さが混ざる。ぼやけた視界の中で先輩と目が合う。切れ長のつめたい瞳。私の好きな瞳。稚拙な独占欲が私を侵食する。同時に私に欲情してるこのひとが、愛しくてとてもばかな生き物に思えた。

相変わらず視界は揺れていて、滲んだ世界の向こうに先輩が見える。もうどんな表情をしているか分からない。知りたくもない。身体を重ねて誰よりも近くにいるはずなのに、誰よりも遠く感じるのはなぜだろう。

先輩の肩が一度大きく震えて、それが終わりを迎えたのが分かった。

この男は、きっと私を愛さない。

けれど、私はこの男の隙間にするすると入り込んで、癒着して、甘い蜜を吸い続けたい。愛しながら、罵りながら、憎しみながら、女としてあり続けたい。