darling

深夜二時。

私はいつものごとく眠ることが出来ずに、
布団を頭まで被って身体を丸める。
そうしてイヤフォンで音楽を小さく流して、
あのひとのことを考える。

イヤフォンからはあのひとの好きなアーティストの曲が流れていて、
胸焼けがするくらい甘ったるい言葉を、万人の心に訴えかけるような感動的なメロディーにのせて歌っている。
歌い手の声が少し掠れているところが、歌詞と中和されてちょうどいいのかもしれない。

今まではそんなに気にしていなかったこのアーティストを、あのひとと出逢ってから毎日聴くようになった。
歌詞の意味を、あのひとに重ねて聴くようになった。
そしてしまいには、ライブにまで行くようになってしまった。
(その理由の半分は彼に会うためだけれど。)


この優しいうたを、幸せな妄想とともに聴く。
目を瞑り、あのひとの声を、顔を思い出して。
隣にあのひとはいないけれど、私は幸せだ。

そうして幸せな妄想をしているうちに突然音楽が終わり、
私は現実の世界に引き戻される。


部屋の奥で、冷蔵庫のブーンという低い音が聞こえる。

心が底冷えして、また私は枕を濡らす。
泣きながら、叶うことのない夢を抱きながら、それでもあのひとに会いたいと思いながら、
今日も夢へと落ちていく。